日本の伝統産業ってとても魅力的ですよね。私は、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンに勤めていた時に、伝統工芸のマーケティング支援活動をしていました。
その活動の中で「ポテンシャルは非常に高いのにもったいないな」と常々感じたものです。
長年の研鑽によって磨かれた職人さんたちの高度な技術から生み出される作品に心を奪われるような体験を何度もしてきました。
しかし、どれだけ素晴らしい作品をつくっても知ってもらう努力、伝える努力をしなければ新規顧客の獲得は困難です。
今回は、世界に誇るべき日本の伝統産業への愛を込めて、「伝統産業がリスキリングでデジタルマーケティングを学ぶべき7つの理由」についてお伝えします。
伝統産業とは?
伝統産業とは、古くから受け継がれてきた伝統的な技術や技法を使って、日本の文化や生活に根ざしたものを生み出す産業を指します。
引用:自治体Week「日本の伝統産業ってどんなものがあるの? 伝統産業の現状や発展に必要なこと」
私は、佐賀県に住んでいた時代には、有田焼、伊万里焼、唐津焼、鍋島段通、西川登竹細工、諸富家具、肥前びーどろなどまさに「伝統産業」を支援する活動をしていました。。
今回の記事では、こういった「モノづくり」分野だけではなく、酒蔵や柿の葉寿司など「伝統的な食品」も含めた広義の「伝統産業」として話を進めていきます。
デジタルマーケティングとは?
“デジタルマーケティングは、オンラインで得られるあらゆるデータやタッチポイントを利用するマーケティングです。考えられるタッチポイントと利用されるデータには、web、ブラウザ、検索エンジン、SNS、メール、モバイルアプリ、ビッグデータ、VR、口コミサイト、デジタルサイネージ、デジタルのポイント会員情報、サイトにアクセスした際の位置情報などがあります。”
引用:Adobe「デジタルマーケティングとは?施策や手法、戦略立案のポイント」
デジタルマーケティングは広い概念で、その要素の中に広告、SNS、SEOなどのWebマーケティングも含まれています。
なぜ伝統産業はデジタルマーケティングをリスキリングすべきか?
それでは、伝統産業がデジタルマーケティングをリスキリングすべき理由を具体的にお伝えしていきます。
DXのきっかけになるから
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、業務プロセスの改善や製品、サービスに変革をもたらすことです。また、ビジネスモデル自体の再構築や組織や文化の変革も含めた概念です。
伝統産業に従事する人たちがいきなりデジタル技術を駆使してイノベーションにチャレンジするというのは非常にハードルが高いでしょう。
まずはデジタルマーケティングの中でも比較的取り組みやすいWebマーケティング(SNS、SEO、Web広告)などからリスキリングを始めてみると良いと思います。
なぜかというと、数字をベースに仮説検証し、プロセスの改善をしていくという思考回路が磨かれていくからです。
また、リスキリングの過程でデジタルマーケティング関連のキーワードや知識が身に付き、視野を広げることができます。
「新たな言葉」を覚えることは実は非常に重要です。言葉を知らなければ検索して情報収集することもできないからです。
デジタルマーケティングのリスキリングを入り口にデジタル技術への興味・関心を高め、意識を変えていくきっかけを作ることが重要だと考えます。
物やサービスはオンラインで手軽に販売できる時代だから
2022年8月に発表された経済産業省の資料によれば、令和3年におけるBtoC-ECの市場規模は2021年で20兆円以上にも達しています。また、令和2年のBtoB-ECの市場規模は372.7兆円にまで伸びています。
引用:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果」
低価格で気軽にECサイトをつくれるASPなども多数ありますので、誰でもいつでもオンラインで商品を売れる時代だと言えます。個人の作家さんや職人さんであっても、十分に取り組めるくらいにハードルは下がっています。
お金をかけずに販路を広げられるから
SNSは無料で運用できますし、ECサイトも無料でスタートできます。ある程度の「知識」と「スキル」を身につけさえすれば、容易に集客・販売ができるでしょう。
また、Web広告に関しても自分で設定すれば、1万円や5万円などの少額の広告費でチャレンジできます。
チラシのポスティングや新聞折込などと比較しても安価で取り組むことが可能です。
SNS広告もリスティング広告も機械学習が進歩しているので、代理店に頼らなくてもやる気さえあれば、ある程度の効果は期待できます。
直接お客様に販売できるから利益率が高い
伝統産業の多くは商社や小売店に安値で卸したり、委託販売をしてもらっているところが多いでしょう。
中には販売価格10,000円の品を3,000円で卸す、いわゆる「3掛け」のような価格で商売をしているところもあります。
直接お客様に販売できれば、10,000円の商品が売れれば自分のところに10,000円の売上が入ってきます。利益率が圧倒的に違うわけです。
「顧客体験設計」「顧客感動設計」がキモだから
デジタルマーケティングを考える際に肝となるのが「顧客体験設計」「顧客感動設計」だと私は考えています。
各タッチポイント(顧客が情報に触れる場面)でどんな体験をしてもらうのか、どうやって感動してもらうのかを考えて情報を配置していきます。
それを考えていく過程で「顧客の視点に立つ」思考回路が磨かれていくのです。
すると作品づくりやお客様とのコミュニケーションにも変化が生まれてくる訳です。
結果としてより良い作品やお客様とのより良い関係性づくりにも繋がっていきます。
語れるストーリーが蓄積されているから
伝統産業は数十年〜数百年受け継がれてきた分野です。長い歴史の中に蓄積された「ストーリー」がたくさん詰まっています。ストーリーは上手に発信すれば、人の心を惹きつける強力なパワーになります。
私もたくさんの職人さんにインタビューをしてきましたが、毎回驚きと感動を与えていただき、大変刺激を受けました。
例えば、唐津焼の職人さんは土や釉薬の材料を探しに山を探検したり、工事現場にお願いして土をもらったりするそうです。最終した土や釉薬の材料を使って、実験を繰り返し、好みの質感や色味などを追求します。
「土をこねてろくろを回して作品を作る人たち」というイメージだったのですが、インタビュー後には「唐津焼の職人さんは探検家であり、研究者」というイメージに変わり、深いリスペクトを感じました。
歴史や職人としての生き様、ものづくりの裏側など語れるストーリーは数多くあります。
ストーリーを語ることで、普段は気づかない貴重性や魅力を再発見するきっかけになるでしょう。
映える写真や動画を撮影しやすいから
焼き物、着物、伝統食品、家具、織物など伝統産業の商品は、どれも独特の美しさや渋さなど人の心を動かす魅力に溢れています。
また、「職人の洗練された手仕事」も非常に魅力的です。
高機能のカメラがあればもちろん良いですが、最近はスマートフォンでも、高画質な写真や動画を撮影できるので、プロに頼まなくてもある程度のクオリティで発信することは可能です。
InstagramやTikTokなどは投稿の手作り感が逆に魅力にもなります。
日々の仕事の中に素晴らしい素材が溢れているので、発信するスキルを高めてほしいです。
10代、20代の若い人たちに伝統産業の魅力を伝えるためにもぜひ、InstagramやTikTokにチャレンジしてください。
まとめ
伝統産業に従事されている方々がデジタルマーケティングをリスキリングすることは非常に重要です。視野を広げDXのきっかけづくりになりますし、オンラインの市場はどんどん大きくなっているからです。
また、ある程度学べば、必ずしもプロに頼まなくても成果を出せるようになります。直接お客様に販売できれば、利益率も高められます。デジタルマーケティングをリスキリングする過程で学ぶ「顧客体験設計」「顧客感動設計」という思考回路は作品づくりやお客様への向き合い方にも良い影響を与えるでしょう。
歴史を積み重ねてきた伝統産業には語れるストーリーがたくさんありますし、自分達が当たり前だと思っている日々の仕事も一般の方々にとっては非常に珍しく魅力的に映ります。
作品、作業工程、暮らしなど映える写真や動画を撮影するチャンスも多分にあります。
ぜひ、デジタルマーケティングの知識とスキルを身につけて、世界に誇れる日本の伝統産業を若い世代にも伝えていく活動をしていただきたいです。
弊社ではオーダーメイドのデジタルマーケティング研修(セミナー・ワークショップ)に取り組んでいます。
ご興味のある方は、ぜひ、お問合せください。