企業にとってのリスキリングの必要性【始めないとまずい!】

リスキリングに取り組む必要性を感じる従業員の手
目次

リスキリングの定義と背景

現代のビジネス環境は急速に変化し続けており、新しい技術やグローバル化などが企業にとってのリスクや機会を増やしています。そのため、従業員のスキルや知識が陳腐化することは、企業にとって大きなリスクとなります。こうした課題に対処するために、リスキリングという再教育プログラムが注目されています。ここでは、リスキリングの定義と必要性について解説します。

リスキリングとは?

リスキリングとは、新しい技術や業務手法の導入によって、従業員のスキルや知識が陳腐化し、不足することから生じるリスクに対処するための再教育プログラムのことです。リスキリングは、企業が進化し続ける現代のビジネス環境において、従業員の生産性向上や企業の競争力維持に不可欠な要素となっています。

例えば、 マーケティングの手法はここ5年、10年で大きく変わってきています。デジタルマーケティングが急速に進化する中で、かつての成功体験に基づいたマーケティングの手法を使い続けることは、企業にとって大きなリスクとなります。

例えば、SNS広告やコンテンツマーケティングなどの手法を知らない企業のマーケティング担当者は、顧客獲得やブランドイメージの向上などの課題に対応できず、競争力の低下を招く可能性があります。

リスキリングが必要とされる背景

現代のビジネス環境は、急速に変化し続けています。AIやIoTなどの新しい技術や、グローバル化に伴う国際的な競争、新しいビジネスモデルの出現など、企業にとってのリスクや機会が増えています。

加えて、コロナ禍によって進んだデジタルシフトによって、従来のビジネスモデルが根底から変わる可能性があります。これにより、従業員のスキルや知識が陳腐化し、かつての成功体験が足を引っ張る事態にもなりかねません。これは、企業にとって大きなリスクとなります。

また、少子高齢化の加速による人材不足や価値観の変化による従業員の定着率低下といった問題も深刻化しています。リスキリングは、こういった社会環境の変化に適応する企業文化を醸成するためにも有効な手段だといえます。

リスキリングの導入メリット

リスキリングは、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、その代表的なメリットを紹介します。

従業員のスキルアップによる競争力の向上

リスキリングによって、従業員のスキルや知識がアップデートされることで、企業の競争力が向上します。新しい技術や業務手法に精通した従業員が多数いる企業は、迅速かつ効率的な業務の実施が可能となり、市場競争で優位に立つことができます。

例えば、販売業界においては、オムニチャネル戦略に関するスキルが求められます。オムニチャネルとは、オンラインとオフラインの両方の販売チャネルを活用したマーケティング戦略のことです。顧客の購買行動が多様化し、オンラインショッピングの普及によって、販売チャネルは多様化しています。このため、オムニチャネル戦略は、顧客の接点を多様化することで、顧客ロイヤルティを高め、売上増加につなげるために重要となっています。

オムニチャネル戦略を実施するためには、従業員には、顧客のニーズや行動を分析するためのデータ解析スキル、オンラインとオフラインの両方の販売チャネルに精通したセールススキル、商品管理や在庫管理に関するスキルなどが必要です。このようなスキルを持った従業員がいることで、企業はオムニチャネル戦略を迅速に実施することができ、市場競争において優位に立つことができます。

人材確保コストの削減

従業員のスキルアップによって、企業が必要とする人材を外部から探す必要性が低下します。これにより、求人広告や採用コンサルティングなどのコストが削減されます。また、リスキリングによって、企業の中でのキャリアアップ機会が増えることで、従業員の定着率が向上するため、採用コストや人材流失によるコストも削減されます。

産業用機械メーカーの例を挙げると、特定の機械の製造に必要な技術や知識がある従業員が不足する場合、外部の専門業者に委託して作業を行う必要があります。しかし、リスキリングによって、従業員がその技術や知識を身につけることで、外注費を削減できます。例えば、工作機械の製造メーカーでは、従業員がCAD/CAMソフトの使用や加工技術の習得などを行い、製造プロセスを自社内で完結できるようになることで、外部の専門業者に発注する必要がなくなり、コスト削減につながっています。

従業員のモチベーションアップ

リスキリングは、従業員のモチベーションアップにもつながります。成長欲求は人間の基本的な欲求の一つであり、従業員が新しいスキルや知識を身につけることで、自己成長を実感できるため、仕事に対するモチベーションが向上します。

また、企業が従業員に対して積極的にリスキリングを行うことは、従業員に対する「投資」としての意味合いがあり、会社への帰属意識や忠誠心の向上に寄与します。

さらに、リスキリングによって新たなスキルを身につけた従業員に対して、積極的に評価し、キャリアアップの機会を提供することで、従業員のモチベーションアップや定着率の向上にもつながります。

企業のブランドイメージ向上

企業がリスキリングにどのように取り組んでいるかを外部に発信することで、ブランドイメージ向上や採用への好影響が期待できます。

例えば、企業のWebサイトやSNS上でリスキリングに関する情報を公開することで、企業のリスキリングに関する取り組みをアピールすることができます。

さらに、社内でのスキルアップ研修や課外活動などの取り組みを積極的に紹介することで、従業員のモチベーションアップや社員間のコミュニケーション促進にもつながります。

企業の取り組みが社会に対する貢献につながる場合には、CSRとしての価値も高まるため、企業としてもリスキリングの取り組みを積極的にアピールすると良いでしょう。

リスキリングの導入ステップ

リスキリングを導入するためには、以下のようなステップが必要です。ここでは、その基本的なステップを紹介します。

従業員の現状把握

リスキリングを導入するにあたって、まずは従業員のスキルや知識の現状を把握することが必要です。各従業員がどのような業務を担当しているか、どの程度のスキルや知識が必要かを明確にし、現在の従業員のスキルや知識がどの程度該当しているかを調査します。

従業員のスキルや知識に関する情報を収集する方法として、以下のような手法があります。

・面談:上司や人事部などが従業員に対して面談を行い、業務に必要なスキルや知識、今後身につけたいスキルなどをヒアリングする方法です。

・アセスメント:従業員が実際に業務を行う際に必要なスキルや知識を測定する方法です。筆記試験や実技試験などを行い、従業員の実力を評価します。

・スキルマップの作成:従業員が持つスキルや知識を一覧化し、その従業員が担当する業務との関係性を明確にすることで、スキルアップの方向性を把握することができます。

これらの手法を活用することで、従業員のスキルや知識を正確に把握することができます。また、スキルマップを作成することで、従業員のスキルアップの方向性を明確にすることができるため、リスキリングの計画を立てる上での重要なツールとなります。

必要なスキルの洗い出し

現状把握の結果をもとに、必要なスキルや知識を洗い出します。その上で、企業が目指すビジョンや戦略に合わせて、従業員に求められるスキルや知識を明確化します。

なぜ必要なスキルの洗い出しが必要なのかというと、不必要なスキルアップに時間や費用を費やすことを避けられるからです。

現在の業務や将来的な業務の変化によって必要となるスキルを洗い出すことが必要です。従業員に業務をリストアップしてもらい、その業務に必要なスキルや知識を洗い出しましょう。

また、競合調査や海外の先進事例なども調査し、その業務が将来どのように変化していくか、目指すべきゴールから逆算してスキルを洗い出すと良いです。

スキルアップのプログラムの構築

プログラム構築においては、以下のポイントが重要です。

1. 目的を明確にする:リスキリングの目的を明確にし、それに合わせたプログラムを構築することが重要です。例えば、新しい技術の導入に伴い従業員のスキルアップが必要な場合は、その技術に関するスキルを重点的にカリキュラムに取り入れる必要があります。

2. カスタマイズする:従業員のレベルや業務内容に合わせて、カリキュラムをカスタマイズすることが重要です。全員が同じカリキュラムを受講する必要はなく、必要なスキルを個別に身につけることができるようにすることで、より効果的なリスキリングが実現できます。

3. 評価する:プログラムの効果を評価し、改善することが重要です。従業員のスキルアップが企業の業績にどのように貢献したかを定量的・定性的に評価し、改善点を把握することで、より効果的なプログラムを構築できます。

また、注意すべきポイントとしては、以下の点が挙げられます。

1. コスト:リスキリングのプログラムにはコストがかかるため、予算を十分に確保することが重要です。コストを削減するために、オンライン学習やeラーニングを活用することができます。

2. 時間:従業員がリスキリングのために割く時間が業務時間に影響するため、時間配分を考慮することが必要です。プログラムの期間や内容を調整することで、業務とリスキリングの両立が可能となります。

3. モチベーション:プログラムを受講する従業員のモチベーションを維持することが重要です。定期的なフィードバックや報酬制度など、モチベーションを高める仕組みを導入することで、より効果的なリスキリングが実現できます。

プログラムの実施と評価

プログラムの構築後は、実施と評価が必要です。リスキリングのプログラムは、従業員のスキルアップを目的としていますが、その効果を評価することで、プログラムの改善点を把握し、より効果的なプログラムを構築することができます。実施中の従業員の意見や評価、受講率や成績の推移などを踏まえて、プログラムの評価を行います。

具体的な評価手法としては、以下のようなものがあります。

1. テストやアセスメント

受講した従業員が、プログラムで習得したスキルや知識をテストやアセスメントで評価する手法です。テストやアセスメントの結果をもとに、従業員のスキルアップ度合いを評価することができます。

2. フィードバック

従業員が、プログラムを受講していく中で、その内容や方法、難易度などについてフィードバックを受ける手法です。従業員の声をもとに、プログラムの改善点を把握し、改善につなげることができます。

3. アウトプットの評価

プログラムを受講した従業員が、実際に仕事に活かしている成果物や業務の質を評価する手法です。アウトプットの評価を通じて、プログラムの効果を客観的に評価することができます。

これらの評価手法を活用し、プログラムの効果を客観的に評価することが重要です。

日本企業におけるリスキリングの課題・問題点

リスキリングは、多くのメリットがある一方で、導入には様々な課題があります。ここでは、日本企業におけるリスキリングの課題を紹介します。

コストや時間の問題

リスキリングには、コストや時間がかかることが課題となります。特に中小企業では、コストや時間の制約があるため、リスキリングを導入することが難しい場合があります。また、リスキリングのプログラムに従事する担当者がいない、または担当者のスキルが不足している場合も、リスキリングの導入が遅れる原因となります。

従業員の意欲不足

従業員がリスキリングに積極的に取り組むことができない場合も、リスキリングの課題となります。従業員のモチベーションを向上させるためには、目的や意義を明確にすることや、成果報酬の設定などが必要です。

制度の整備不足

リスキリングを導入するためには、制度の整備が必要です。制度が整備されていないと、プログラムの構築や実施、評価が十分にできないため、リスキリングの導入が遅れる原因となります。また、従業員がスキルアップのための時間を確保する制度がない場合も、リスキリングの導入が困難となることがあります。

管理職のスキル不足

リスキリングを導入するためには、管理職のスキルアップも必要です。リスキリングを導入する際には、従業員だけでなく、管理職に対しても新しいスキルや知識を習得する必要があります。管理職のスキル不足は、リスキリングのプログラムが円滑に進まない原因となる場合があります。

リスキリングの課題・問題点については下記の記事で詳しく解説しています。こちらも併せてご覧ください。

▶︎リスキリングの問題点とは?上手くいかない理由と対応策を解説

日本企業のリスキリング導入事例

リスキリングの導入は、日本の企業でも進んでいます。ここでは、実際にリスキリングを導入し、効果を上げている日本企業の事例を紹介します。

ANAホールディングスの「ファーム」と「道場」

ANAは、DXに向けて取り組む中で、マインドセット変革やシステム環境整備などの施策を実施し、育成プログラム「ファーム」と「道場」に取り組んでいます。

ファームでは、若手社員を指導する新任管理職をプロ野球のファームになぞらえ、育成します。道場では、社員自身がDXの実践的なスキルを学ぶことができます。これらのプログラムは、ANAのDXに向けた取り組みを支援するために開始されたものです。

ANAは、これらのプログラムを通じて、業務部門とIT部門の縦割りを解消し、DXに必要なデジタル人材を育成することを目指しています。ファームと道場で育成された人材によって、搭乗客が預けた手荷物が荷物ゲートに出てくる時間を知らせる機能が開発されるなど、業務改革の成功事例も出てきています。

参考:ANAの〝野村さん〟に学ぶDXを継続させる秘訣

キャノンのCIST

キヤノンは、人材育成に力を入れ、グローバル人材育成制度や職種転換を伴う研修型キャリアマッチング制度、ソフトウェア技術者のためのCanon Institute of Software Technology(CIST)など、自ら成長する社員を支援する体制を整えています。

キャリアマッチング制度は、社員の希望や能力、適性を考慮して、新たな職種に転換できる研修プログラムを提供するもので、シストでは、ソフトウェア技術者の育成に注力しています。キヤノンは、実力終身雇用の考え方を採用しており、職種転換を伴う研修型キャリアマッチング制度を2016年から開始し、18年にはシストを立ち上げるに至ったのです。

キヤノンは、研修型キャリアマッチング制度を活用して、社員の職種転換を推進しています。この制度は、公募や部門推薦により要員を創出し、4カ月間にわたり研修を実施。その後、該当社員を新たな部署に再配置するという流れです。研修中は所属が人事部付に変わり、フルタイムで研修を受けます。

同制度は主に入社4年目以降の社員が対象で、社内のキャリアカウンセリングを受けた後、書類審査や面接を経て、人物像や能力を審査します。研修後は再びキャリアカウンセリングを受けたうえで、新たな部署へ再配置される仕組みです。近年は、職種転換した社員を受け入れた部署から「おかわりが欲しい」と要望があるほど好評な制度となっているそうです。

参考:キヤノンの“成果”はいかに? 4カ月研修後に「社内転職」

まとめ

急速に変化するビジネス環境において、従業員のスキル不足が企業の成長を阻害する一因となっています。そのため、リスキリングの取り組みはどんな業種・業界であれ、必要だと考えられます。

リスキリングの導入メリットには、従業員のスキルアップによる競争力の向上、人材確保コストの削減、従業員のモチベーションアップ、企業のブランドイメージ向上などがあります。

リスキリングの導入ステップとしては、従業員の現状把握、必要なスキルの洗い出し、スキルアップのプログラムの構築、プログラムの実施と評価が必要です。

一方、日本企業におけるリスキリングの課題としては、コストや時間の問題、従業員の意欲不足、制度の整備不足、管理職のスキル不足などが考えられます。リスキリングを成功させるためには、企業が積極的に取り組むことが必要です。

本記事で紹介したANAホールディングスの「ファーム」と「道場」、キャノンのCISTなどの事例を参考に、ぜひ、どんな取り組みができるのか、必要なのかを考えてみてください。

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